【何だか切ない】かいじゅうたちのいるところ【不思議で可愛い世界観を考察】

今回ご紹介するのは「かいじゅうたちのいるところ」です。

©︎2009 IMDb

「かいじゅうたちのいるところ」モーリス・センダック作の世界的有名絵本。それを、 ビョークケミカル・ブラザーズなどの数々のMVや、『マルコヴィッチの穴』などで知られる異才スパイク・ジョーンズが映画化。どこか不思議で可愛くて、心暖まるストーリーとなっています。そしてジョーンズらしい、寂しげだけど、希望のある優しい世界観が詰まっています。

Story

主人公はどこか孤独を抱える8歳の悪戯っ子のマックス。忙しくも優しいシングルマザーの母と姉と暮らしています。しかし近頃は姉は友達ばかりと遊び、ママは恋人を家に招いたり、マックスには面白くない事ばかり。寂しくてつまらないマックスは、オオカミの着ぐるみを着て大暴れ。ママの肩にも噛みついてしまいます。ママはひどく怒り、マックスは思わず家を飛び出しました。するといつの間にか、マックスは空想の海辺に浮かぶ船に辿り着き、冒険へ出かけて行きます。そして、とある島に辿り着き、寂しさに怯えるかいじゅう達と出会います。彼らに食べられそうになったマックスは、思わず自分にはすごいパワーがあると嘘をつきます。するとかいじゅう達は、マックスを自分達の王様にする事に。そして家から逃げ出したマックスと、孤独で愛に飢えたかいじゅう達の、不思議な生活が始まるのです。

Cast

監督スパイク・ジョーンズ
マックスマックス・レコーズ
ママキャサリン・キーナー
キャロルローレン・アンブローズ
KWローレン・アンブローズ
ダグラスクリス・クーパー
アイラフォレスト・ウィッテカー
ジュディスキャサリン・オハラ
アレクサンダーポール・ダノ

原作の絵本の世界観

児童本作家・画家のモーリス・センダックは、ニューヨーク州ブルックリンのユダヤ人居住地区で生まれました。病弱だった幼少期にミッキーマウスのファンになり、その後に出会ったディズニー映画の「ファンタジア」に心を打たれ、それが彼の作風に大きな影響を与えました。また、絵本の中のかいじゅう達は、センダックの親戚がモデルとなっているそうです。

Mirfacesより引用

「子供時代は複雑な物で、何か間違いをしでかす事もある。」と繊細で複雑な子供の心情と、また「子供達は空想と現実を生きている、僕らがもう覚えてないやり方で、簡単に行ったり来たりできるんだ。」と作品の中でマックスが訪れる世界について語りました。-Bustleより抜粋

Molly
Molly

絵本の中にある寂しさや優しさが複雑に入り混じる愛は、そんな彼が描いた難しくもかけがえのない感情です。その世界観は映画にもしっかりと落とし込まれていて、見ると胸が暖かく締め付けられます。

リアルすぎるかいじゅう達

作品の驚くべきポイントはその撮影方法。巨大で、自由に動き回っているかいじゅう達は、なんとCGでは無く着ぐるみなのです。こちらはかいじゅう達に自然な動きを与えるために、ジョーンズ監督が考えた図案。

©︎2010 映画. com

 表情だけはCGを使い、あとは実写で撮影したそう。ジョーンズ監督は、かいじゅう達をCGでは無く着ぐるみにする事で、触れ合える確かな重みを表現しました。また、かいじゅう達の声は、担当する役者達が先に、演劇のように一同集って録音。その声に、着ぐるみの中の演者達が動きを付けたので、よりかいじゅう達が本当に喋っている様な自然な映像を撮影できたのです。

Molly
Molly

本当に精巧にできている着ぐるみなので、生きている様にしか見えませんよ…。涙を流したり笑ったり、表情も動きも豊かです。

退屈と寂しさを抱えるマックス

マックスに落書きされた、可愛いWBのロゴが映画の始まり。雪の積もったある日、マックスはイグルーを作って遊んでいました。姉にイグルーを見せたいのに、彼女は友人との電話で忙しく相手にしてくれません。そこへ姉の友人達がやって来て、マックスは遊んでもらおうとちょっかいを出します。姉の友人達は、雪合戦をしてくれましたが、勢い余ってマックスのイグルーを壊してしまいます。マックスは泣き出しますが、姉は知らん顔で友人達と出かけて行ってしまいました。

Molly
Molly

個人的にはWBの落書きが可愛くて大好きです!その後のシーンは、冷たい雪と置き去りのマックスの孤独が溶け合った、寂しい雰囲気を感じさせます…。

マックスは悲しみと怒りに任せて、姉の部屋をめちゃくちゃにしてしまいます。しばらくすると我に帰り、寂しそうに自分の部屋のベッドに横たわりました。部屋には手作りの砦の模型や、パパからのプレゼントの地球儀があります。地球儀にはこの世界の王様マックスへ パパよりとメッセージが彫られています。今はきっと、毎日会えないパパからのプレゼントかもしれません。

ベットシーツの海に、船の模型を泳がせるマックス。この小さな船や部屋の模型達が、マックスがこれから出会う空想世界を暗示していますそこへママが仕事から帰宅。ベッドにいるマックスに心配そうに寄り添います。マックスは悪事を白状し、ママと一緒に姉の部屋を片付けました。

Molly
Molly

マックスの寂しさが、シーンの節々に散らばっています。ママが帰って来たシーンでは、なんだか見ている私までママに会えた様な、ホッとした気持ちになりました。

その晩、電話で仕事の話をするママは、険悪な様子。マックスは元気付けようと、側でロボットダンスを踊り、ママを笑わせます。そしてママの足元に寝そべり、疲れたその顔を見つめました。するとママは「何かお話して。」と言い、少し考えてマックスは話を始めます。

「いいよ。ある所にビルがいくつか建っていて、それはとても背の高いビル達だった。そしてそのビル達は歩けたんだ。そしてそこには何人かのバンパイアがいた。そのうちの1人のバンパイアが背の高いビルに噛み付いた。そしたら牙が折れてしまったんだ。他の歯も全て抜け落ちて、彼は泣き出した。そしたら他のバンパイア達が「なんで泣いてるの?」って聞いた。「抜け落ちたのは乳歯じゃないの?」って。そしたら彼は「違うよ、大人の歯だよ。」って言ったんだ。そしたら他のバンパイア達は、もう彼がバンパイアではいられないと分かって、彼を置いてどこかへ行っちゃった。おしまい。」

そんな不思議で切ない話をするマックスを、ママは愛おしそうに見つめ返しました。

Molly
Molly

自分なりにママの力になろうとする、健気なマックスを愛おしいシーンです。歯が抜け落ち、ひとりぼっちになってしまったバンパイアの物語は、マックスの心の奥底にある、静かで確かな孤独や、寂しさへの怯えの象徴だと私は感じました。

また、本作のサントラを手がけるカレンO『igloo』がこのシーンで流れます。寂しげで暖かい、この作品の雰囲気にぴったりな素敵な曲です。

Molly
Molly

ちなみにサントラを担当したカレンOYeah Yeah Yeahsのフロントマンで、本作の監督ジョーンズの元カノ

マックスの大冒険

その晩、マックスは自分の部屋でブランケットの砦を作り、遊んでいました。ママも誘いますが、ママの恋人が来ていて全く相手にしてもらえません。のけものにされた様でつまらないマックスは、オオカミの着ぐるみを着て大暴れ。みんなを困らせて気を引こうとします。

Molly
Molly

ママの恋人役としてマーク・ラファロがちょっぴり出演!

怒ったママは部屋を駆け回るマックスを捕まえようとし、マックスは思わずママの肩に噛みついてしまいました。するとママは「もう手に負えない!」とマックスに叫びます。その言葉にショックを受けたマックスは家を飛び出して夜の町を駆けて行き、いつの間にか空想の海辺に到着。マックスはそこに浮かんでいた小舟に乗り込み、広大な海へと漕ぎ出します。

日が昇り、また沈み、マックスの航海は続きます。マックスは広い海に少し不安そう。そんな時、大きな嵐がやって来てマックスは命からがら、とある島へ上陸。その島でマックスは孤独なかいじゅう達に出会うのです。マックスは、かいじゅう達を物陰からこっそり覗き見ます。1匹のかいじゅうは「おしまいだ!全て壊せ!壊すんだ!」と叫び、自分達の住処を壊していました。

彼の名はキャロル。他のかいじゅう達の反対を押し切り、破壊を続けています。みんなは口々に彼を批判し、彼は「みんなが一緒にいない事を誰も気にしないんだ、気にするのは俺だけだ」と溢します。みんなから悪者扱いされているキャロルが自分と重なって見えたマックスは、思わず飛び出して住処の破壊に乱入。そんなマックスに、慌てふためくかいじゅう達。キャロルはマックスに近づき、匂いをかいで唸ります。彼はマックスを気に入った様子。「どっちが早く壊せるか競争しよう」とマックスを巻き込んで破壊を続けます。しかし迷惑がる他のかいじゅう達は腹を立て、マックスを食べようとし始めるのです。

Molly
Molly

暗闇のかいじゅう達は結構リアルで、初めて見た時はかなりインパクトがありました。絵本より少し怖い感じです…。

©︎2009 IMDb

「問題が起きたら、食べるのが1番よ」と詰め寄ってくるかいじゅう達に「静まれ!」と叫ぶマックス。「何故?」と言う彼らにマックスは思わず、自分には古代からの力があり、世界の秘密を知っている、とでまかせを言いました。かいじゅう達は感心し、マックスに謝ります。すると1人のかいじゅうが「寂しさはどうにかしてくれる?」と尋ね、マックスは「僕の寂しさバリアは全ての寂しさをどっかへやっちゃうよ。僕達全員に十分な大きさだ」と答えました。かいじゅう達はその答えに喜び、マックスを王様にする事に。しかし1人のかいじゅうが

「でも、幸福はいつでも幸せになる一番の手段じゃないわ。」
「Happiness isn’t always the best way to be happy.」

と、印象的なセリフを呟きました。急に現れて、嘘の様に悩みを消してくれると言うマックスは、まるで目先の単純な幸せの様に見えたのかもしれません。簡単に手に入る幸福が必ずしも幸せになる近道では無い、と言う意味だと私は感じました。そんな時もう1人のかいじゅう、KWがやって来ます。キャロルは彼女が他の友人の所へ行き、みんなのもとを離れた事を不満に思い、住処を壊していたのです。みんなは口々に彼女に「ついに王様を見つけたんだ!」と言いますが、彼女は浮かない様子。そんなKWを他所にキャロルは、早速マックスに王冠と杖を渡しました。

新しい王様になったマックス

キャロルは「君は本当に良い王様になるだろう。」と、王様が見つかった事に安堵します。キャロル以外のみんなはマックスが普通の子供だと分かっていましたが、平穏もたらし、キャロルをすっかり幸せにした彼に、王様を任してみる事にしたのです。そしてマックスは「かいじゅう踊りをしよう!」と最初の命令を元気良く出します。「完璧だ!」と、かいじゅう達はみんなで踊り、森を駆け回って楽しみました。バラバラだったみんなが1つに戻ったかの様です。

みんなは幸せそうに、朝日に向かって遠吠え。KWはマックスを見つめて優しく微笑みました。

Molly
Molly

私はこのKWが本当に大好き…。ミステリアスなのですが、とても優しい心の持ち主で、自分のことで精一杯の他のかいじゅうと違って、包容力を持っています。私はそんな彼女に会いたくなって、何度もこの作品を見返してしまうのです。

かいじゅうたちの自己紹介

アレクサンダー (ポール・ダノ)

山羊の様な風貌の彼は、みんなから話を聞いてもらえないので、いつも気を引こうと一生懸命。気弱で自信が無さそうですが、他のかいじゅう達より、優しくておっとりした雰囲気です。

Molly
Molly

彼の声は私も大好きな俳優、ポール・ダノが担当!

ダグラス (クリス・クーパー)

彼はとても賢くて役に立つかいじゅうです。キャロルが「無人島に何か1つ持って行くのならダグラスだ」と言うほど彼から信頼されています。

ジュディス (キャサリン・オハラ) アイラ (フォレスト・ウィッテカー) 

2人は恋人同士。左側のジュディスは少し陰気で攻撃的ですが、マックスに興味津々。なんだか憎めない戯けたキャラクターです。一方右側のアイラは、温和でのんびりした性格。マックスにも丁寧に挨拶をしました。そんな彼の趣味は木に穴を開ける事。

Molly
Molly

ちなみにジュディスの声を担当したキャサリン・オハラは、ホームアローンのお母さん役としても有名!

KW (ローレン・アンブローズ)

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心優しく、他のかいじゅう達とは違う複雑な感情の持ち主。かいじゅう仲間の他にも友人を作ったりと、アクティブな一面も持っています。

ザ・ブル (マイケル・ベリーJr.)

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無口で謎の多いかいじゅう。乱暴そうな素振りも見せず静かに立っています。

KWとキャロル

賑やかなみんなを他所に、キャロルは陰からKWを見つめていました。彼女はかいじゅう達の他にもボブとテリーと言う友人がいて、キャロルはそれが不満なのです。そこでマックスは、みんなの制止を無視してKWにちょっかいを出しに行きます。

KWに飛び乗ってふざけるマックスに、みんな不安そうな表情。しかし、KWは楽しそうに笑ってマックスと戯れあい始めます。その様子に安心したみんなは、そこへ加わっていきました。そして彼らは小さなマックスにお構い無しに、おしくらまんじゅう状態に。マックスは彼らに挟まれて動けなくなってしまいますが、KWが助けてくれました。そこでKWは改めてマックスに自己紹介をするのです。ミステリアスな彼女ですが、無邪気なマックスには少し心を開いた様子。

「ボブとテリーって誰?」とマックスが尋ねるとKWは、良い友人だと言います。すると今度は、KWがマックスに家族のことを尋ねます。マックスが言葉に詰まると、KWは「みんな食べちゃったの?」とかいじゅうらしい事を言い出します。マックスは慌てて、「噛みついただけだよ」と、みんなから悪者扱いをされた事をと話しました。自分が悪者なのかもしれない、と落ち込むマックスを、彼女は「でも、あなたが来てくれて嬉しいわ。食べない人は歓迎よ。あなたは誰かを噛んだだけだし、噛みつき屋はそんなに悪く無い。食べちゃう人は好きになれないの。」と優しく歓迎。そしてかいじゅう達とマックスは、心地良い眠りにつきました。

Molly
Molly

KWは他のかいじゅうと違って、マックス自身の事を質問し、歓迎しました。彼女には、マックスが力を持っていようがいまいが、そんなことは関係ないのです。

マックスが目を覚ますと、彼はのしのしと歩くキャロルの腕の中にいました。キャロルはマックスに見せたいものがあると言います。そしてこの世界は全て君のものだ。と呟きました。

Molly
Molly

このキャロルのセリフは、パパからのプレゼントの地球儀にも彫られていましたね。そんなセリフの登場によって、マックスが今いるこの島が、空想の世界なのだと分かります。

マックスはキャロルに乗って楽しげに島を見渡しました。キャロルはマックスに「永遠に王様でいてくれよ。」と言いました。その声は切実で、再び戻ってきた暖かく幸せな時間を、失くしたく無いのだと伝わってきます。やがて2人は砂漠へ到着。キャロルは砂漠を「ここは島のあんまり良く無い所だ。全ては岩だったのに、今じゃ砂だ。そしていつか塵になる。その後はどうなるか分からない。」と言い、不安げな表情をしました。2人の寂しさや不安の色はどこか似ています。

みんなの砦

そしてキャロルはマックスに手作りの砦の模型を見せ、心が離れる寂しさを話しました。

「みんなここへ来たばかりの時は、こんな風に世界を作ろうとしてたんだ。でも…全ての歯が抜け落ちる様な感覚ってあるだろ、気付かない程すごくゆっくりで…気付いた時には、みんな離れ離れになってる。そしてある日、歯が1つも無いんだ。」

Molly
Molly

前にマックスがママのために作った話でも、バンパイアの歯がすっかり抜け落ちてしまっていましたね。この2人の使う歯が気付かない程ゆっくりと抜けていくと言う表現には、愛する人の心が少しずつ離れていく様な、静かで取り返しのつかない寂しさを感じます。

するとマックスは、みんなでこの砦を作ろう、とキャロルに提案。マックスは早速みんなを集め、作戦会議を開始。半信半疑のかいじゅうもいる中、キャロルを指揮官として作業を始めます。力を合わせて木や岩を運び、砦を作るうちに、みんなはどんどん楽しくなっていきました。砦が完成し、マックスはキャロルと2人で名前を彫って喜びました。親密そうな2人を見ていたジュディスは、キャロルがマックスのお気に入りなのだと勘繰ります。

そしてジュディスはマックスに、王様はみんなの事を平等に扱うべきだと文句を言い始めました。険悪なムードを見かねたKWは、マックスを連れ出します。そして「気にしなくて良いよ、彼女は陰気だから。」とマックスを慰めました。そこでKWは、気晴らしに友人のボブとテリーに会いに行こう、とマックスに提案。

Molly
Molly

みんなの関係はやっと上手くいった様に見えましたが、彼らは愛情を求める強い力は、ちょっとした事で不安定になってしまうのかもしれませんね。

KWは浜辺で、ボブとテリーをマックスに会わせました。賢い彼らにマックスは「どうしたらみんなを大丈夫にできる?」と尋ねましたが、彼らはガーガー鳴くだけ。KWは彼らの言葉が分かりますが、マックスにはちっとも分かりません。そしてKWが、ボブとテリーがみんなに会いたがっていると言うので、彼らを砦へ連れ帰ることにしました。するとかいじゅう達は大喜び。みんな彼らの言葉が分かる様で、会話が弾みます。しかしキャロルだけはマックスの様に彼らの言葉が分かりません。「ふくろうは間抜けだ!」と悪態をつき、みんなから失礼だと怒られてしまいます。

「何でみんな、あいつらがそんなに好きなのか分からないんだ。」と落ち込むキャロルにマックスは、自分も言葉が分からない、と話しました。すると少し安心した様にはにかむキャロル。彼のボビとテリーに対する態度は、まるで家にママの恋人がやって来た時のマックスの様。

Molly
Molly

自分の知らない誰かと親しげにする家族に、寂しくて憎らしい気持ちになってしまうのかもしれませんね。

壊れてしまった王様

マックスはすっかり落ち込んだ雰囲気になったみんなを元気付けようと、泥団子合戦を提案。みんなはすっかり戦いに熱中し、楽しい時間を過ごします。

しかしそこで事件が起こります。KWがふざけてキャロルの頭を踏んだ事で、キャロルはとても怒ってしまったのです。ジョークだった、と言うKWに、ボブとテリーに言った悪口の仕返しで踏んだんだ、とキャロルは聞く耳を持ちません。KWは「これだから私はこれ以上あなたと何もしたくなくなるの、じゃあ私の頭を踏めば」と嫌気が差した様に言いました。するとキャロルは「それじゃ君の気が済むだけだろ」と去ってしまいます。マックスが代わりにKWの頭を優しく踏むと、彼女は「ありがとう、マックス。でももう終わり、何で戻って来たのか分からないわ。あなたに会えたのが嬉しかったのかも」と言いました。

Molly
Molly

きっと今までもKWは、キャロルとこうして複雑な関係を続けてきたのかもしれません。キャロルの不安定で求めてばかりの愛情に、時々KWは疲れてしまうのでしょう…。

泥団子合戦でみんなはすっかりくたびれて意気消沈。雰囲気は悪化してしまいました。マックスはみんなを元気付けようとロボットダンスをするも「王様が壊れちゃった」とみんなはガッカリ。マックスを置いて帰ってしまい、マックスは1人海辺で考え込みます。

キャロルの暴走

マックスが砦へ帰ると、アレクサンダーが1人で座っていました。マックスは「僕がめちゃくちゃにしちゃった…。」と悲しそうに呟きます。するとアレクサンダーは「君は本当は王様じゃ無いんだろう?普通の子だ、知ってたよ。」と言いました。そして「僕は気にしないけど、キャロルにだけは知られちゃダメだよ。」と深刻そうに続けました。その言葉にマックスは少し怯えます。

そしてその晩、恐れていた事が起こってしまいます。みんなで砦で眠っていると、キャロルが騒ぎ出しました。「またみんながバラバラになっている!」と、砦を壊し始めたのです。そんなわがままを通そうとするキャロルをマックスは説得しますが「助けてくれないなんてひどい王様だ!」とキャロルは怒りだします。ついにマックスは「もう手に負えない!」と叫びました。その言葉にショックを受けたキャロルは「食べてやる!」とマックスを追いかけ始めます。

Molly
Molly

マックスは自分がママから言われてショックを受けた言葉を、キャロルに使ってしまいました…。まるで寂しさで暴れた自分を客観的に見ている様です。

逃げるマックスにKWは「私の中へ隠れて!」とをお腹の中へ入る様に言います。そこへやって来たキャロルは「俺は手に負えなくなんか無い!」と、さっきのマックスの言葉に傷ついている様子。しかしKWは「食べようとしたくせに!」と怒ります。するとキャロルは「何故か言ってしまったんだ!俺は彼が言うほど悪者なのか?俺はただみんなで一緒にいたいだけなんだ…。」と泣きそうな声で言い、去って行きました。KWは「彼は何でも難しくするの、もう十分難しいのに。」と呟きました。「彼は君を愛してる、君は彼の家族だ。」とマックスが答えると「そうね、家族でいるのが大変だわ。」と言いました。

Molly
Molly

キャロルは誰かを愛する人の心には必ず存在する激しい感情を、まるで具現化した様な存在、に私は思えてなりません。KWを、彼女への強い愛情ゆえに振り回してしまう…。相手を憎んでいるわけでは無く、むしろ強く愛しているからこそ、感情が複雑になってお互い苦しくなる時があるのでしょう。

KWはマックスをお腹から出すと、マックスは「君達にもママがいれば良いのに」と呟き、KWは微笑みました。「僕、家に帰るよ」マックスはキャロルとのやりとりでママの事を考えた様です。翌朝マックスは、以前キャロルが見せてくれた模型のある基地へ向かいました。すると手作りの砦の模型は、キャロルによって壊され、めちゃくちゃに。そこへマックスは、キャロルへのメッセージを残します。砦の方へ戻ると、マックスとダグラスが座って話していました。

「バイキングとは何があったんだ」とキャロルはマックスに改めて尋ね、マックスはそこで自分には力が無いと告白。「じゃあ君は何なんだ?」と不機嫌なキャロルに、マックスは「僕はマックスだよ」と答えました。「それは大した事ないな」そう冷たく言い残すと、キャロルはどこかへ行ってしまいました。唯一の味方で、王様だと信じていたマックスに裏切られたと感じ、キャロルはまだ怒っている様です。

食べちゃいたいくらい大好き

夕方の海辺には、マックスを見送るかいじゅう達が集い、寂しそうな表情を浮かべていました。王様で無くとも、みんなに再び暖かく楽しい気持ちを与えたマックスの事が、かいじゅう達は好きだったのです。無口だったザ・ブルは「家に着いたら、僕らが優しいって言ってくれる?」と、この時初めてマックスに話しかけ、マックスは「そうするよ」と答えました。彼らは彼らなりに、愛されたいと思っているのです。そしてマックスは、寂しそうなアイラにハグをしました。

それを切なそうに見つめていたジュディスとアレクサンダーは「食べなかった王様はあなたが初めて。」と言いました。そしてKWはマックスを船へ乗せます。

「行かないで、食べちゃいたいくらい大好き。

KWの愛には、マックスのママのイメージが強く反映されている様に思えます。マックスが普段ママから感じる深い愛が空想の中で形になったもの、それがKWなのかもしれません。愛されてるってわかっているし、もちろん自分もとても愛している。なのに時々憎らしくて意地悪をしてしまう…。かいじゅう達は、マックスの抱える複雑で、愛を常に求める気持ちの象徴の様です。別れ際にマックスは、KWに優しいハグをしました。マックスは船に乗ってからも、キャロルが来ないか気にしていましたが、ついに船は海へ。かいじゅう達は身を寄せて、それを見送ります。

その時、基地にあったマックスからのメッセージを見て、走って来たキャロルが浜辺に到着。キャロルはひどく寂しそうに泣きながら、マックスを遠吠えで見送りました。キャロルの遠吠えに、みんなもつられて吠え始め、マックスも船から吠え返します。マックスは最後にやって来てくれたキャロルに、寂しげでも、少し安心した様な表情で吠えました。

KWとキャロルは優しい眼差しを互いに向けました。かいじゅう達はどんな難しい事が起きても、家族である事に変わりありません。互いを何度見失っても、再び愛に帰り着く事ができます。

Molly
Molly

もちろん全ての関係性に言える事ではありませんが、地球上のどこかにはそんな大切な人が、それは家族でなくとも、存在しているのかもしれませんね。

マックスの帰宅

航海は順調で、マックスは帰宅を待ち望む笑顔を浮かべていました。そして船が岸に着くと、マックスは一目散に家へと駆け出します。夢の様な景色もあっという間に、夜の住宅街に早変わり。マックスが恐る恐る家の中に入ると、それに気付いたママが彼を強く抱きしめました。

お互いに何も言葉は交わさずとも、安心感と愛情に満ちた空気に包まれます。ご飯を食べるマックスを見つめながらママは、すっかり安心し、頬杖をついたまま眠ってしまいました。

そんなママをマックスは優しく見つめます。暖かい料理を用意して待っていたママ。そのホッとした表情から、マックスをものすごく心配していた事が分かります。

ずっと一緒に過ごしていると、心に余裕が無くなったり、未来が暗くなったりと、自分や愛する人への気持ちが揺れ動く時がたくさんあります。そんな時、相手をとても愛しているからこそ、激しくて大きな感情を相手に向けてしまうのです。誰かを愛する私達の心にもきっと、孤独に怯え、愛を求めるかいじゅう達が住みついています。

おわりに

私はこの作品が本当に大好きで、見返す度に自分の中のかいじゅう達の事も考えます。誰しもマックスの様に、愛を求めたり、思う様に誰かを愛せない一面を持ち合わせている、と私は思ってるのです。キャロルの様に力尽くで愛しても、時には相手を苦しめたり、傷付けたりしてしまいます。愛する人への思いは、心の奥底にまで入り込んでいるので、ちょっとした出来事にも深く傷付いてしまうのです。愛を伝える、愛を求める、感情のやりとりは幸せを運ぶと同時に、難しくもあります。私はこのかいじゅう達は、それを具現化したものだと思っています。たくさん悩まされますが、どこか憎めない愛しいかいじゅう達。きっと私は彼らと一緒に、今までの難しくて大切な感情を乗り越えて来たのでしょう。これからも彼らと向き合う事で、何度でも暖かい愛を思い出す事ができます。この作品は、そんな複雑で優しい感情の旅路だと私は思っています。

©︎2009 IMDb

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