【ピエロ・マンゾーニ】芸術家の糞とはどんな作品?【天才って分からない】

ART

この衝撃的で、見るものを困惑させる缶詰は、イタリアの芸術家ピエロ・マンゾーニによる作品「芸術家の糞」です。1961年にマンゾーニは、90個の缶を用意し、それぞれに30gずつ自分の便をつめて販売。価格は、当時の缶と同じ重さの金に換算されていました。そして2015年には、アートオークションにて2370万円もの価格で落札されたのです。

Artist’s Shit (1961) by Piero Manzoni ©︎2016 PAHIDON
Molly
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世界一高額な人糞と言っても過言では無いでしょう…。

ピエロ・マンゾーニってどんな芸術家?

ピエロ・マンゾーニPiero Manzoni)は、20世紀のイタリアの美術家で、画家であり彫刻家。彼は 1933年7月13日にイタリヤのクレモナで誕生し、1963年にミラノで30歳という若さで死去。その短くも多くの芸術作品を生み出した人生は、世界に衝撃を与えました。

 © 2015 MELZI FINE ART

 マンゾーニに衝撃を与えたイヴ・クライン

1957年の1月、23歳だったマンゾーニは、ミラノのガレリアアポリネールで開かれていたクラインの青い絵画の展示会『イヴ・クライン-モノクロームの提案、ブルーの時代』を訪れました。クラインはフランス生まれの芸術家で、晩年のみを芸術活動に充てたため、その期間はマンゾーニと同様に短いものでした。しかしそれは、単色のみで表現する絵画でモノクロニズムを確立させたり、「インターナショナル・クライン・ブルー(International Klein Blue, IKB)」という黄金よりも高貴な青を生み出して特許を取得したりと、その活動は目覚しいものでした。そんなクラインの展示会で感銘を受けたマンゾーニは、それまでは実に習慣的な芸術家でしたが、その手法やモチーフが大きく前衛的に変化したのです。

Portrait of Yves Klein during the shooting of Peter Morley “The Heartbeat of France”, 1961
Charles Wilp’s studio, Düsseldorf, Germany
© Photo : Charles Wilp / BPK, Berlin yvesklein.com

マンゾーニのコンセプチュアル・アート

クラインとの出会いで、前衛的な手法でアートに取り組み始めたマンゾーニ。その斬新で、不可思議な作品達は、まさにクラインのDNAを色濃く引いている様に思えます。いくつか彼の作り上げた作品達をご紹介しましょう。

 アクローム(Achromes) 無色の表面

アクロームは線や色の無い空間で、1957年に製作され始めました。当初アクロームは、白い粘土か石膏、天然粘土鉱物であるカオリンを染み込ませただけの紙や布などを用いて製作されていました。やがて素材は変化し、1960年代にかけては綿や人工繊維、ウサギの皮、ロールパンなどの立体的な素材で作られる様に。アクロームは主に白色で「それは白の画面以外の何者でもない白なのである」という概念を表現しました。

Achrome 1958 Piero Manzoni 1933-1963 Purchased 1974 TATE

「この容器を空にする、表面を解放する。完全な空間が持つ無限の意味と、純粋で絶対的な芸術を見出してみようじゃないか」
“Why not empty this receptacle, free this surface, try to discover the unlimited meaning of total space, a pure and absolute art?”

マンゾーニはアクロームを通して、人間が経験を通じて生み出す観念や図像を表現する再現的表象から、絵画を開放しようとしたのです。

Molly
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これは、調度品を全て取り払った壁を白く塗り「空白」を表現したクラインの影響下にあったマンゾーニらしい視点の作品。芸術の脱物質化を図るために、芸術の神秘性を除外したことによって、むしろ神秘性が増した、と言われています。

 ライン(Manzoni’s Lines)

Piero Manzoni Una linea lunga (12 Line series) 1959 cardboard tube  © 2015 MELZI FINE ART

1959年から1961年にかけて製作さたラインは、様々なロール紙にインクで書かれた線を、段ボールのシリンダーに入れたアート。貼られたラベルには、ラインの長さが表記されています。ラインには様々な長さが存在し、大体1.76m〜7200mに及びます。中に収められた長方形の紙に描かれているのはただ1本の線ですが、マンゾーニはそれを無限で、額縁などの空間に収まらないものとして表現しました。紙の端から端まで書かれている線は、終わりが無いことを体現しているのです。マンゾーニはこの概念を、箱に書かれたラベルのみで鑑賞者の想像力に訴えようとしました。中でも7200mのラインは最長で、デンマークはヘルニングの新聞工場で製作。そしてそのロール紙を、亜鉛の容器につめてラベルをはり、地元の公園に展示しました。マンゾーニは、製作したラインの長さのトータルが地球の円周に達したら、ラインの製作を終了すると表明したそうですが、実際にそれが成し遂げられたのかは分かっていません。近年のアートオークションでは、マンゾーニのラインは1000万円超の価格で落札されているそうです

Molly
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近年のアートオークションでは、マンゾーニのラインは1000万円超の価格で落札されているそうです。コンセプチュアルアートのファンにはたまらない概念みたいですね!

 彼の拇印入りの茹で卵

Piero Manzoni ©︎2016 PAHIDON

1960年に発表された、彼の拇印入り茹で卵のアートもかなり前衛的。150個もの茹で卵に、自らの親指で母音を押し、観客に配って食べさせたのです。これには、アートを消費する人々によるアートの消費、という、当時の高額で取引される消費物となっていた、芸術に対する風刺的な意味合いが込められています。

 アーティストの息

Artist’s Breath 1960 Piero Manzoni 1933-1963 Presented by Attilio Codognato 2000 TATE

ラインの製作を経てマンゾーニは、行為とそれに伴う痕跡に注目し始めます。やがてマンゾーニは、自身の肉体に直接関係する作品を製作し始めます。60年代にマンゾーニが発表した「アーティストの息」は、1919年にフランス系アメリカ人芸術家のマルセル・デュシャンが発表した「パリの空気 50cc」に影響を受けているとされます。デュシャンは、液薬などを保管するガラス容器のアンプルにパリの空気をつめ、彼のアメリカ人パトロンであった、ウォルター・アレンスバーグ夫妻に「金では買えないパリ土産」としてプレゼントしたそう。それに感銘を受けたマンゾーニの「アーティストの息」は、風船を自らの息で膨らませることによって製作されました。

Air de Paris Marcel Duchamp Christie’s

 生きる彫刻

1961 Living Sculpture Piero Manzoni  MELZI FINE ART

1961年の4月に、ローマのタートルギャラリー(The Turtle Gallery)で、マンゾーニは「生きる彫刻」を製作しました。これを、署名と作品の習慣的な関係性に変化をもたらす作品として、マンゾーニは製作。ギャラリーを訪れた観客や、ヌードモデルに自らのサインを書き込むことで、彼らを生きる芸術品へと変えたのです。赤のスタンプが入った人々は、彼らの人生の全てが芸術作品とされ、黄色のスタンプは、彼らの体の限定された一部を芸術作品と示しました。そして緑のスタンプが入った人々は、彼らがある一定の状況下においてのみ、芸術作品とされました。その状況は、眠っている間や走っている間などだったそうです。

Molly
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マンゾーニ以前にも、マルセル・デュシャンが男性便器に偽名を署名した作品「泉」などが、署名をメインとした作品として製作されています。今までの概念や習慣に一石を投じ、鑑賞者に新しい視点とユーモアを与えている様です。

世間を騒つかせた「芸術家の糞」

そして最後にご紹介するのは、今もなお世界の注目を集め続けている「芸術家の糞」です。マンゾーニはこれを、父親の持っていた缶詰工場で製作しました。正式名称は「メルダ・ダルティスタ」「アーティストの戯言」を意味します。

Artist’s Shit (1961) by Piero Manzoni  MELZI FINE ART

 中身は一体何なのか

今日に至るまで、その中身は明確には分かっていません。しかし、中を開けるともう1つの入れ物が入っている、または、排泄物でなく石膏が入っている、という意見も散見されます。ラベルには「30g 自然保存」と記されており、発売当初は物議を醸しました。価格は当時の金30gと同価格に設定されましたが、飛ぶ様に売れたそうです。開封すると芸術的価値が落ちるとして、今までで開封された缶は1つしかなく、その中にあった入れ物は今もなお開封されていません。

Bernard Bazile, “Boîte ou­ver­te de Pie­ro Man­zo­ni” (Photo via: Xavier Hufkens Gallery)

 消費されゆく芸術への風刺

マンゾーニは「芸術家の糞」を、高価格で販売した狙いは何だったのか?それは、どんなものでも芸術と言ってしまえば、高値で売買される世間を風刺することでした。芸術が、芸術という名だけで価値があるものとされ、メッセージを何も持たないものでも高価格で売れる。マンゾーニの排泄物が金と同価格で飛ぶ様に売れた現象、その一連の世間の動き自体が彼の表現したかった風刺的な作品だったのかもしれません。

Foto: Helene Bagger Piero Manzoni PAHIDON トイレで缶を持つマンゾーニ

おわりに

コンセプチュアルアートは、一見奇想天外で、とても芸術とは思えないものも多くあります。しかし、そのどれもが、芸術家達の思想や世間に対する批判などの表現を孕んでいるのです。今回ご紹介したマンゾーニの芸術達も、世間を賑わせる不思議なものが多いですが、彼なりの確固たる思想のもとに作られました。世間の習慣化して、それ以外の道が存在しないかの様にされた文化の、外側に広がる際限の無い世界を私達に教えてくれるのです。現代アートの醍醐味はここにあるのだ、と強く思わされました。彼が作品を通して、常識囚われた世界に作ってくれた多くの視点や道は、これからも私達に囚われるべきでは無いことを教えてくれるでしょう。

Molly
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以前は現代アートが少し苦手だったのですが、その意味合いや、表現している思想を考えることを知って、前よりは好きになれた気がします。ものを楽しむには、ある程度の知識が必要だということが身に染みている今日この頃です…。

 参考文献

ピエロ・マンゾーニ展 カタログ (PDF 29.2MB)

The power of Piero Manzoni and his Merda d’Artista PAHIDON

Piero Manzoni Archive

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