
ウディ・アレン監督の「ミッドナイト・イン・パリ」は、ちょっぴり不思議なロマンスコメディ。登場人物達の使う言葉は、どこか詩的でロマンチックなものばかりです。本記事では、そんな彼らセリフの中から、日常会話で使える様な英単語やフレーズをご紹介します。
Drop dead
Can you picture how drop dead gorgeous this city is in the rain?
見える? 目を見張るほど美しい雨のパリが
こちらは映画冒頭で、主人公ギルが言うセリフ。婚約者のイネズに、パリの美しさを語るシーンです。そしてここで使われている「drop dead」は、「目を奪われるほどの」「目を見張るほどの」を意味する形容詞・副詞です。また、ギルはこのセリフで「drop dead」を形容詞の「gorgeous」を修飾する副詞として使用しています。そして「how drop dead gorgeous this city is」の部分は感嘆文。

「How」の感嘆文の文法は How +形容詞/副詞+主語+動詞 です!
Drop deadのフレーズ・使い方
「drop dead view」
目を見張る景色
「drop dead gorgeous」
うっとりする程魅力的
「drop dead view」は「drop dead」が名詞「view」を修飾しています。よって「drop dead」が形容詞的に使われています。 一方「drop dead gorgeous」では「drop dead」が形容詞「gorgeous」を修飾。この「drop dead」は副詞的に使われていると分かりますね。

副詞的用法か形容詞的用法か、気にしすぎることは無いのですが、頭に入れておくと、文をスムーズに理解できるかもしれません!
また「drop dead」は、この他にも「急死する」「くたばれ」「あっちいけ」と言うネガティブな意味も持っているので、使うときはご注意くださいね。

Hack, Shot
I’m a Hollywood hack who never gave actual literature a real shot.
僕は今まで、本格的な小説に挑戦したことの無かったハリウッドの下っ端脚本家だ。
ポールに小説を批評してもらう様に勧めるイネズに対し、ギルが言ったセリフです。「ポールの批評で、小説が上手くいかない理由が分かる」と言うイネズに、下っ端の脚本家が初めて小説に取り組むのだから、問題があって当たり前だ、とギルは言っているのです。ここで使われている「hack」は「下っ端の記者」「文筆家の下働き」を意味する名詞です。続いて使われている「shot」は「挑戦」「企て」を意味する名詞で、「give it a shot(挑戦する)」の定形分の一部。その文に「actual literature(実際の小説)」などを組み合わせて、ギルは使っていますね。
Hackのフレーズ・使い方
「a literary hack」
へぼ作家
「a hack job」
つまらない仕事
「hack」は「下手な」「つまらない」と言うニュアンスも持ちます。また、動詞としては「叩き切る」「切り開く」などの意味で使われます。「hack」は砕けた印象を与えることが多いので、フォーマルな場で使う時には注意が必要です。
Shot(give it a shot)のフレーズ・使い方
「You should give cooking a shot」
料理に挑戦するべきだよ
「I’m going to give it my best shot」
最善を尽くします
1文目の様に「give it a shot」の「it」の部分を動名詞に変えると、挑戦することも表現できます。また、2文目の様に「my best」を加えて使ったりもします。頻繁に使われるフレーズなので、覚えておくと便利なフレーズですよ。
Pan out, Beat one’s brains out
If this book doesn’t pan out, that you’ll stop beating your brains out and just go back to doing what you do best.
もしその本が上手くいかなかったら、小説に懸命に取り組むのはやめて、あなたが1番得意なことに戻って。
初の小説を執筆しているギルに、イネズが言ったセリフです。小説が売れなかったら、得意な脚本業に戻ると約束して、と執筆に奮闘しているギルにはちょっと冷たい言葉ですね…。ここで使われている「pan out」は「上手くいく」「発展する」と言う意味の動詞です。また「beating your brains out」は、「知恵を振り絞る」「懸命に頑張る」と言う意味のイディオムです。

ちなみに「beating your brains out」の「brains」は複数形になっていますが、主語が単数でも、複数形をそのまま使います。イディオムとして決まったフレーズなので、不自然でもこれが正解です!
Pan outのフレーズ・使い方
「The company panned out」
その会社は発展した
「How have the problem panned out?」
その問題はどう解決したの?
「pan out」は「報われる」と言うニュアンスも含みます。問題や物事の発展や、改善などを表現できます。あまりフォーマルな表現では無いので、砕けた印象を相手に与えます。
Beat one’s brains outのフレーズ・使い方
「I’m beating my brains out to write a novel」
小説を書こうと懸命に取り組んでいる
「Beat one’s brains out」は直訳の「頭をぶつけて脳を出す」が転じた「知恵を絞る」「考え抜く」と言う意味で使われます。覚えておくと便利なイディオムですね。

Feel drawn to
Adriana is her name. And I felt drawn to her.
アドリアナが彼女の名前です。僕は彼女に惹かれているんです。
こちらはギルが、20年代でダリ達に、アドリアナに恋をしてしまったことを話す時のセリフ。ここで使われている「felt drawn to」は「〜に惹かれる」を意味するイディオムです。
Feel drawn toのフレーズ・使い方
「I feel drawn to this book」
私はこの本に惹かれる
「feel drawn to」は人物や物、様々な名詞に対して使うことができます。魅力的に思う何かについて話す時に、使えると便利なフレーズですね。
Checkmate
I can give you a checkmate argument for each side.
どっちの議論が正しいか決着はつかかないよ。
「昼のパリか、夜のパリか、どっちが美しいか比べられない」と言うアドリアナ にギルが言ったセリフです。直訳すると「どちらの意見も言い負かせる主張を与える」となります。「checkmate」は名詞として「王手詰み」「行き詰まり」を意味し、動詞としては「詰める(チェスや将棋で)」「追い込む」「打ち負かす」などの意味を持ちます。従ってギルは、昼のパリが美しいと言う意見、夜のパリが美しいと言う意見、どちらも間違っている、と主張しているのです。どちらのパリも美しいので、甲乙付けるべきでは無いと言うニュアンスですね。
Checkmateのフレーズ・使い方
「He likes to proceed rapidly to checkmate in argument」
彼は議論に、早く終止符を打つのが好きだ
「checkmate」は、チェスの話と間投詞以外ではあまり使われません。しかし稀に、議論や計画に対して「行き詰まらせる」「王手をかける」と言う意味合いで使われることがあります。

No wonder
That was Djuna Barnes? No wonder she wanted to lead.
ジュナ・バーンズだったの?道理でリードが上手いわけだ。
ギルがフィッツジェラルド夫妻のパーティーで、ジュナ・バーンズと踊った時のセリフです。ここで使われている「No wonder」は「道理で〜な訳だ」「〜で不思議は無い」を意味するイディオムです。ジュナ・バーンズは米国作家で、英文学に大きな変化をもたらしました。彼女がT・S・エリオットの手を借りて執筆した『夜の森』は、その不思議な魅力でカルト的評価を獲得しています。そんな才能豊かで、英文学を引っ張る彼女は、20年代のパリに滞在。その時パリに滞在していた多くの芸術家達は、男女問わずみんな彼女に惹かれたと言います。それを知っていたギルが「彼女がダンスをリードしたがるのは不思議じゃ無い」と言うのも不思議じゃありませんね…!
No wonderのフレーズ・使い方
「No wonder he got angry」
彼が怒るのも無理は無い
「She couldn’t sleep well, and no wonder」
彼女が眠れなかったのも当然だ
「It is no great wonder that he should succeed」
彼が成功するのは至極当然だ
「〜でもなんら不思議は無い」と言うニュアンスで使われます。「no wonder」を1文目の様に文頭でを使ったり、2文目の様に文末で使ったりしますが、意味は特に変わりません。また、3文目の様に文頭に「It is」を付けて使うこともあります。「great」を「no wonder」に加え、意味を強調することもできますよ。
Fair
500 francs for a Matisse? Yeah I think that sounds fair!
マティスが500フラン?お買い得ですね!
スタインがマティスの絵画を500フランで買おうとしている時に、ギルが言ったセリフです。ここで使われている「fair」は「公正な」「適正な」を意味する形容詞。ギルのセリフも直訳は「それは適正ですね」となります。購入するのに適正な値段、それが転じて「お買い得」という意味で使われているのです。
Fairのフレーズ・使い方
「a fair deal」
公正な扱い
「Time is fair to everyone」
時間は誰にでも平等
「fair」は「平等な」と言うニュアンスでも使えます。その他にも「かなりの」「有望な」「清らかな」などの意味もあり、表現に幅があるので注意すると良いかもしれません。

Start in
Wow! Didn’t take Gauguin long to start steaming in.
ゴーギャンはすぐ君にちょっかいを出したね!
アドリアナとベル・エポックにタイムスリップしたギルが言ったセリフです。ここで使われている「Start in」は「〜に着手する」「〜し始める」と言う意味のイディオム。すぐに彼女に話しかけ始めた、と言うニュアンスです。「steaming」は副詞として「すごい」「とんでもない」と言う強調の意味を持ち、このセリフではゴーギャンのちょっかいの素早さを強調しています。
Start inのフレーズ・使い方
「start in on a writing」
執筆を始める
「It will start in 3 minutes」
あと3分で始まる
「〜が始まる・始める」「取り掛かる(作業に)」と言う意味でも使われます。
使えるとちょっとお洒落な単語のご紹介
noble:高潔な、気高い、上品な (形容詞)
e.g.「A noble statue(気品ある彫刻)」
gracefully:優雅に、潔く (副詞)
e.g.「I want to age gracefully」優雅に歳を重ねたい
nostalgia:郷愁、懐かしむ心情 (名詞)
e.g.「nostalgia for lost times」過去を懐かしむ心情
wonderfully:驚くほど、素晴らしく (副詞)
e.g.「She looks wonderfully cute」彼女は驚くほど可愛い
mantra:真言、経典 (名詞)
e.g.「This book is my mantra」この本は私の経典です
defeatist:敗北主義者の (名詞)
e.g.「A defeatist attitude」逃げ腰
insurmountable:打ち勝て無い、克服できない (形容詞)
e.g.「An insurmountable difficulty」無理難題
antidote:解決法、解毒剤 (名詞)
e.g.「You are an antidote for my melancholy」あなたは私の憂鬱を消してくれる
おわりに
ミッドナイト・イン・パリの中のセリフは、詩的で美しい言葉が多いですよね。その中から今回は、いくつか日常会話で使える物をご紹介してみました。英語学習のお役に立てれば幸いです◎

まだまだわからない単語も多いので、精進して参ります…!
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