「1人」に、どんなイメージを抱きますか?それはネガティブで、少し悲しいものが多いかもしれません。世間一般的に、寂しいものとされている「1人」ですが、その表情を様々な角度から見ようとする人が、最近は多くなってきている様に思えます。本記事ではそんな「1人」を考え、「1人」が心に及ぼす影響や、意外な一面をご紹介していきます。

そもそも「1人」ってなんだろう?

漠然としたネガティブさを定義するために、辞書を引いてみました。
1 人数が1であること。一個の人。いちにん。
Weblio国語辞典
2 仲間・相手がいなくて、その人だけであること。単独。
3 他の人の助けを借りず、その人だけですること。独力。自力。
4 配偶者のないこと。独身。
とにかく独立しているイメージの説明が、たくさん出てきました。そしてそれは、他者がいない、もしくは必要としない状況で、過ごしたり物事を行うこと。今更調べなくても、当たり前の事実ですね。しかし、その事実には、特に寂しいイメージはありません。
「1人」と「孤独」

私も所謂「1人が好きなタイプ」なのですが、特に1人でいることに寂しさは感じません。しかし「誰かに何か共有したい」とか「誰かの意見を聞きたい」と思った時の「1人」には、多少の寂しさや孤独感を感じるのです…。
そこで私は、寂しさを伴う「孤独」と「1人」の違いについて考えました。

「1人」には、自発的な行動が伴っていることが多く、充実した時間を過ごせる気がします。むしろ、自分の世界に没頭するために「1人」であることが重要。自分の思うままに時間を使い、自分が自分のためにやりたかったことができる、と私は思うのです。

一方「孤独」は、物理的に1人きりでいない時にも生じますよね。大勢の中にいて、誰かに何かを伝えたくても伝えられなかったり、感情を上手く共有できなかったり…。そんな時に感じる寂しさや、他者と通じ合えない悲しさが「孤独」だと、私は考えています。
「孤独」は私にどう影響する?

私は「1人」と「孤独」を違うものと定義して、「孤独」が心に与える影響について考えてみました。
「孤独」は病気のリスクを上げる
「孤独」を感じた時、それは脳にとって「痛み」として認識されます。そしてそのストレスは、体に炎症を引き起こし、免疫力の低下に繋がるのです。炎症により脳卒中を引き起こしたり、免疫力の低下で肺炎になりやすくなったりするので、死亡リスクも上昇。おまけに心にも悪影響を及ぼすので、うつ病などの精神疾患にも罹りやすくなってしまいます。「人間はそもそも群れで生活する生物で、本能的に孤独を恐れる」という説もあり、慢性的な社会的孤立や孤独感は、心身共に非常に悪影響を受ける様です。
「孤独」は記憶力にも悪意影響を及ぼす
最近の研究では、「孤独」は認知機能にも悪影響を及ぼすことも判明しました。「孤独」によって生じるストレスホルモンのコルチゾールは、血圧を上げたり、免疫機能を低下させるだけでなく、記憶を司る脳の海馬を萎縮させるのです。アルツハイマーになるリスクは2.1倍とされています。


ここで言う「孤独」な状態は、社会的に孤立している、社会と敵対関係にある、といった状態。確かに「1人」とは異なる点が多い様に感じます。当たり前ですが「1人」でいても、社会との関わりを断ったり、塞ぎ込むことは良くないのですね。
「孤独」の対処法
そんな「孤独」への対処法は、弱くてもいいから繋がりを大切にすること。普段あまり会わない友人でも、つながりがあるだけで、孤独感への効果はある様です。また、ボランティアの参加したり、地域活動への参加は週5回以上の運動と同じレベルで、健康への好影響が確認されています。他にも講義を受けたり犬を飼ったり、新しいことを始めるのも効果的です。
「孤独」を肯定する名言もある
医学的にも、本能的にも「孤独」は悪影響を及ぼすということがわかりました。しかし、本当に「孤独」がもたらすことは悪いことだけなのでしょうか?そこで、孤独を肯定する偉人達の言葉をいくつかご紹介します。孤独と寄り添ってきた人々が、孤独を多面性を教えてくれますよ。
会話は理解を豊かにする、しかし孤独は天才が通う学校である。
イギリスの歴史学者 エドワード・ギボン
優れた思考を持っている者が、それを咀嚼するのは孤独な時。孤独は自分を成長させ、思考を磨く、学校の様なものだったのでしょう。そして、ここでギボンが指している「孤独」は、社会から断絶され自分を追い込む様な、質の悪い孤独では無いと思います。自分と向き合い、熟考する良質な孤独こそが、思考を磨いてくれるのでしょう。

最上の思考は孤独のうちになされ、最低の思考は混乱のうちになされる。
アメリカ合衆国の発明家 トーマス・エジソン
エジソンもまた、孤独が最上の思考をもたらすと考えていました。確かに物事を深く考えるには、1人の方が捗るのは当たり前ですよね。彼らの言う「孤独」は、思考の中に余分なものが無く、自分だけで考えることに没頭できる状態なのかもしれません。
孤独は優れた精神の持ち主の運命である。
ドイツの哲学者 アトゥル・ショーペンハウアー
世の中には1人の時間を嫌う人も、一定数いますよね。そしてそれは決して悪いことではありません。しかし、寂しさや自身の思考や運命と向き合うことを恐れ、現実逃避的に他者へ依存することは、あまり良く無いかもしれませんね。自分としっかり向き合う時間を作ることができる、ショーペンハウアーはそんな精神を優れていると考えていたのでしょう。

孤独な者よ、君は創造者の道を行く。
ドイツの哲学者 フリードリヒ・ニーチェー
芸術家の多くは、孤独と上手に付き合うことで創造性を豊かにしていた、とされています。また、プライバシーが守られた状況下で、人間の創造性や生産性は上がることも分かっていますね。多くの芸術家や思想家は孤独を大切にしながらも、友や家族を1人は持っていました。わずかでも他者とのつながりで、精神衛生を程良く保ちながら、孤高の才能を磨いていたのです。

孤独とは生命の要求である。
デンマークの哲学者 セーレン・キェルケゴール
「孤独」は人間が本能的に恐れるものである反面、創造性や強さを与えてくれる一面があります。キェルケゴールはそれを、人間に必要なものだと考えたのでしょう。また、知能指数の高い人ほど、1人の時間に幸福感を得やすいと進化心理学者の研究で判明しているので、キェルケゴールが孤独を肯定的に捉えたのも不思議はありませんね。歴史的な偉人や天才は孤独を愛し、交友関係の少ない人が多かったそうです。キェルケゴールにも生涯友人がいなかったとされています。
孤独であって、充実している。そういうのが人間だ。
日本の芸術家 岡本太郎
芸術とか、哲学とか思想なんて、みんな孤独の生み出した果実だ。
岡本太郎は『孤独がきみを強くする』と言う著書もあるほど、孤独のもたらす良い一面も捉えている芸術家です。「群れるな。孤独を選べ。 孤独はただの寂しさじゃない。 孤独こそ人間が強烈に生きるバネだ。 」「孤独」が創造、そして生きることの糧として使えることを、教えてくれます。孤独の持つ毒も理解しつつ、孤独を利用する。天才ならではの発想ですね。
1人の時間が私に教えてくれたこと

一方で「1人」が私に与えた影響は、絶大で素晴らしいものでした。続いてはそんな「1人の時間」について詳しく考えてみます。もちろん全ての人には当てはまりませんが、「1人」の状況が心や脳に与える効果を、参考程度にご紹介できればと思います。
感情や思考の整理ができる
忙しい日々の中でインプットした情報や知識は、整理しないと頭から簡単に抜け落ちていきます。そして、自分に必要な知識を留めておくための作業時間は大切だ、と私は考えました。休みの日には、古本屋で資料を集めたり、部屋に積みっぱなしの本を読んだり、スクラップをまとめたり。自分が必要としていたり、興味のあるものを集めることが、自分を深く知るための最高のプロセスなのです。今まで出会ったことのない感情や知識に出会い、自分をカルチベートする。時間を私のためだけに使うことはとても贅沢で、幸福な気持ちになれるのです。また、「1人の時間」や「孤独」を肯定的に捉えている人は、自尊心やアイデンティティの確立が向上する傾向にある、と言う研究結果も出ています。


「1人の時間」に対する感情や、使い方は人それぞれなので、正解はありませんよね。私はもともと友人が少なく、望まなくても簡単に1人の時間を作れ、たまたまそれを楽しめる性分だったのです。友人が少ないことを気にした時期もありましたが、今は少しの幼なじみと家族を大切にして、自分自身の楽しいことの追求を心がけています。ある意味自分に正直になった結果かな…。
ニュートラルな自分に戻る
仕事などで、多少無理して社交的になった自分を、ニュートラルで解放された状態に戻すことが大切だと知りました。ハーバード大学の研究では、1人の時間を過ごしてから仕事や学校などの日常的な生活に戻ると、記憶力や学習能力が向上することも分かっています。日常生活では、自分の感情や行動を制限しなければならない場面の連続ですよね。そんなくたびれた自分を、開放してあげる時間が精神衛生上良いとされています。

本当にやりたいことに取り組む
ハーバード大学のベサニー・ブルーム氏によると、1人の時間は生産性が上がる、と言うことがわかっているそう。無意識が処理する膨大な情報量を、孤独な環境が軽減してくれるのです。プライバシーが守られている、と感じることができる1人の環境は、作業効率が向上し、アイデアも生まれやすくなります。また、彫刻家のルイーズ・ブルジョワは「孤独によって責任から一時解放され、心の平安を得ることは、工房の雰囲気や他者との会話よりも有益だ。会話など、たいていは時間の無駄でしかない」なんて言葉も残しています。

他者とも関わりや会話が無駄だ、なんてことはありませんが、やりたいことに孤独な時間を作って取り組むことは有益なことの様です。ブルジョワの発言の様な、過激な孤独を望まなくても、SNSを断ってみるなどの、小さな工夫が大切ですね。
共感性が高まる
身近にいる家族や友人と過ごしている時間が長すぎると、相手に対する感情が鈍くなってしまうことがありませんか?どうやらそれは、自分と相手の距離が近過ぎて相手への共感力がマンネリ化してしまうことが原因な様です。しかしここで「1人の時間」を適度に保てば、自分の人間関係や、他者への認識を客観的に見ることができる様になりますよ。一歩引いた部分から、自分の意識や感情を相手へ向けることによって、失った共感力を養うことができるのです。

豊かな創造力が生まれる
「1人の時間」には、自分の感情と向き合う瞬間が増えることによって、感受性を豊かにする効果もあります。外に向けられていた意識や注意が、自分の内に向かうことで、感情を上手に捉えることができる様になるのです。また、他人と作業をしていると、自分のアイデアが受け入れられるかどうか心配になって、アイデアを形にしない、なんてことも少なくありませんよね。そんな心配も「1人の時間」では不要。他者の目を気にして表には出さないアイデアも、思い切って形にすることができます。加えて、他人を意識しないことによって普段使っている脳の部分が休まり、他の部分が活発に動く様になる、と言う利点もあります。そして内省によりアイデアが浮かんだり、考えが明確になったりすることはよくあること。多くの芸術家や偉人が、孤独を愛した理由がわかりますね。

おわりに
「1人の時間」やそれに伴う「孤独」が心や頭に与える影響について、今回は考えてみました。何かと1人の時間が多くなったこのご時世でも、有意義で豊かな時間を過ごしたい。1人でいる時間に感じる「孤独」も、自発的で良質なものであれば、私達の思想や創造性に非常に良い影響を与えてくれるのです。世界では「孤独」はまだまだネガティブなイメージの強いものですが、適切に付き合えば、私達の良き友人となってくれます。


私は昔から「1人」や「孤独」に肯定的な人間でしたか、そのイメージは漠然としていました。より詳しくその感情を知ったことで、私はますます「孤独」との付き合いに興味が湧きました。自分自身と過ごすことは、どんなに忙しくても大切なことですね。
参考文献
Medical Tribune「孤立・孤独は深刻な健康リスクである 東京都健康長寿医療センター研究所・村山洋史氏に聞く」
東洋経済「「孤独を感じてる人」が直面する深刻なリスク」
The New York Times「The Rise of the New Groupthink」
Lifehacker「1人でいる時間の重要性と、それを確保するためのアイデア」
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