【Netflix】最高に素晴らしいこと【セリフやサントラをご紹介】

「最高に素晴らしいこと」は2020年2月28日よりNetflixで配信されている映画です。

失って生きること、を切ない程美しく描いた作品。ストーリーが伝えるのは悲しみの乗り越え方、心の変化、美しい景色と音楽。本記事でそんな「最高に素晴らしいこと」を詳しくご紹介します。

自分だけで対処できない心の病がある

「最高に素晴らしいこと」は繊細な題材達を描いています。精神疾患、トラウマ、生きること、死ぬことの恐怖。原作の「僕の心がずっと求めていた最高に素晴らしいこと」の作者であり、本作の脚本も担当したジェニファー・ニーヴンは、物語を実体験から描いたと言います。

昔愛していた男の子がいて、彼は双極性障害を抱えていた。そして精神疾患を調べている期間、それは彼を知り、愛する経験となり、私の執筆に1番の影響を与えた。人生を彼と共有し、一緒に過ごした時間は素晴らしく、私の心は解き放たれた。

フィンチのモデルになった人物は、彼女の記憶の中にいる大切な人なのです。またジェニファーは、フィンチが双極性障害を抱えている時に、誰かへ打ち明けるべきだったと語りました。

私にとって、親が育児を放棄するとどうなるか、子供にどう影響するのかを描くのが重要だった。フィンチの双極性障害は明らかに父親からの遺伝で、母親と姉は父の振る舞いを憂鬱になりながらも、自分達だけで扱っていたでしょう。フィンチに症状が出た時も、話を聞いたり、本当の彼を見て、助けるために、彼の両親がそばにいる事は無かった。フィンチは誰かに、自分の気持ちに正直になって話すべきだった。両親が彼のそばで、もっと注意を払っていれば良かった。

そしてジェニファーは、今心に問題を抱える人達、問題を抱えている誰かを知っている人達へ、人生を取り戻すアドバイスをしました。

あなたは必要、あなたは愛されている、あなたは大切。世界にあなたと言う存在は、あなたしかいない。あなたは1人じゃ無い。あなたの感じるままに物事を感じて良いの、でも1人で対処しようとするのは良く無い。手を伸ばして、誰かと話して、あなたの感情を伝えて。もし周りの誰かが精神疾患と闘っていて心配なら、手を差し伸べて、話し合って。周りに助けてくれる誰かがいる。精神疾患は良くなるわ。人生は長くて果てしない、そして可能性に満ちている。たとえ人生に影が差しても、輝いている場所があちこちにある。そしてあなたはその1つなの。

インタヴュー:WHSmith Blog より抜粋 引用

©︎2016 Gist
Molly
Molly

難しい感情を心に抱くのは悪い事では無く、1人でどうにかしようと無理をするのが良くないのです。友人や家族、カウンセラーや施設でも、他の視点を持つ誰かに助けを求める事が大切ですね。

Story

車の事故で姉を亡くし、塞ぎ込んで自殺願望すら抱いていた主人公のバイオレット。彼女は喪失感と罪悪感で橋の欄干立ち尽くしていた所を、フィンチと言う少年に助けられます。フィンチもまた、父親に暴力を振られていた幼少期の記憶と、抱えている双極性障害に悩んでいました。心に痛みを抱えている2人は、学校の課題として出された名所巡りをきっかけに距離を縮めていきます。美しい言葉や景色を通して互いの傷に触れあい、互いを心の拠り所の様に思い始めるのです。やがて2人は恋に落ち、束の間の明るい日々を過ごしますが、フィンチは抱えている心の闇に、より苛まれていきます。

Cast

バイオレット・マーキーエル・ファニング
セオドア・フィンチジャスティス・スミス
ケイト・フィンチアレクサンドラ・シップ
エンブリキーガン=マイケル・キー
アマンダヴァージニア・ガードナー
ローマーフェリックス・マラード

以下ネタバレを含む解説やセリフの紹介となります

フィンチが見つけ出してくれたもの

ある早朝、フィンチがランニング中に、橋の欄干に立つバイオレットを目撃する所から映画は始まります。フィンチはパジャマ姿で様子がおかしいバイオレットを不審に思いました。そして彼女の横に立ち、手を差し伸べて喪失の淵から救い出したのです。

Molly
Molly

一緒に欄干に立って「結構高いんだな」と言うフィンチ。彼だからこそ、彼女と同じ目線に立てたのではないかと思いました。

この時フィンチのヘッドホンから流れていたのは「Where Do You Go? -Claire George」で、そのタイトルはフィンチのバイオレットに対する気持ちを暗示しています。

See you looking at me, But your broken soul is frozen
私を見ているあなた、あなたの傷ついた魂が凍りついてる

Molly
Molly

2人の出会いを表しているかの様なこの曲。詩は勿論、メロディーも素晴らしいです。早すぎず、しかし躍動感のあるテンポが、2人の始まりの様で希望を感じさせます。

フィンチの日常

フィンチは以前起こした問題によって、週に1度のカウンセリングを受けています。カウンセラーのエンブリは、卒業も危ういフィンチを心配するも、彼は戯けるだけ。そしてフィンチは、友人のパーティーにも行こうとせず塞ぎ込むバイオレットが気がかりなのです。彼は自らも心の問題を抱えているからこそ、心に傷を負った彼女を救おうとせずにはいられなかったのかもしれません。

Molly
Molly

加えてフィンチの家庭は、母親は仕事で家を留守にしがち、父親もおらず、彼が心を開いて話す機会の少ない環境です。姉ケイトはフィンチを愛し大切に思っていますが、彼女も仕事や友人付き合いで家を空ける事が多く、フィンチは孤独だったのです。

四角いチーズを食べるフィンチ
Molly
Molly

フィンチが四角いチーズを食べているシーンが印象的でした。お姉さんから止められていたので、しょっちゅう食べている様子…。フィンチが好んで使う付箋に形が似ているから好きなのかな、とも思ったり…。パリパリするフィルムの感じとか。

フィンチは部屋でレコードをかけながら「I AM AWAKE」と書いた付箋を壁に貼り付けました。壁には、色ごとに綺麗に貼られた沢山の付箋。ここで彼が流していたのは「Mo’ better blues -Branford Marsalis Quartet」

Molly
Molly

フィンチは音楽の趣味が幅広いですね。部屋にスピーカーなどがありますし、結構な音楽好きみたい。PC画面には、DTMで使われるソフトのLogicが写っているので、自分でも音楽を作っている様…。

バイオレットの心の傷

それからフィンチは、バイオレットの事をGoogleで検索。彼女の事故の事、彼女が姉とやっていた小説の創作HPを見つけます。そして事故の記事からフィンチは、今朝バイオレットが立っていた橋が事故現場だったと知るのです。橋へ行ってみると、事故を偲んだ看板がありました。

翌日、授業でインディアナの名所を2ヵ所以上訪ねてレポートを書くと言う課題が出されます。そしてフィンチが授業を聞いていると、バイオレットが遅れて教室に入ってきました。彼女は荷物を撒き散らしみんなに笑われますが、フィンチが机をひっくり返して注目を自分に向け、彼女を助けます。席からフィンチが彼女に笑いかけると、彼女は微笑み返しました。

2人1組で取り組む様に、と言われたこの課題をバイオレットとやりたいと思ったフィンチは彼女に話しかけます。フィンチが「君は完璧な1日ってあると思う?」と尋ねると彼女は「聞く相手を間違ってる」と冷たい返答。しかしフィンチは諦めません。そして部屋の壁に「BECAUSE SHE SMILED AT ME」と書いた付箋を新たに貼り付けました。

Molly
Molly

私はこの「BECAUSE SHE SMILED AT ME」が大好きです。フィンチはバイオレットの微笑みを、彼女を救い出す事と、彼の生きる理由にしたのかも…。私はこの付箋を見た時、サン=テグジュペリ「僕の命を救ったのは他でもない。このささやかなほほ笑みだったんだ。」と言う言葉を思い出して、胸がいっぱいになりました。

一方バイオレットは課題を免除してもらいたい、と母親に話します。すると母親は課題をやらない代わりに、もっと友人と遊ぶ事を提案。そしてバイオレットは、乗り気で無かったアマンダのパーティーに行く事に。しかし彼女はパーティーを思う様に楽しめません。そこにルーマーが来て「いつまで塞ぎ込んでいるんだ?」と彼女に心ない言葉をかけます。

Molly
Molly

彼女の心の傷の言える速度と、外の世界のズレが生じています。傷の深さや癒える速度は、当人にしか分からないものです。ルーマーは一見彼女を思いやる様で、自分本位ですね…。

このパーティーで流れている曲はPARAD-Sylvan Esso

そして「YEAH RIGHT-Joji 」

Molly
Molly

この時フィンチが浴槽で限界まで息を止め、顔を上げて自嘲気味に笑うシーンが入ります。自分をコントロールしようと色々と試しているのかもしれません。そしてそのシーンは、フィンチが「Yeah」と呟くと、バイオレットのパーティーにシーン転換し、そこで流れる「YEAH RIGHT」の歌詞に、その呟きが被る演出になっている様に見えます。フィンチの自嘲の雰囲気と、この曲の「I’ma fuck up my life(自分の人生を台無しにする)」と言う世界観が廃退的にマッチしています。

橋の上の君

それからフィンチは「バイオレット・マーキー、もしこれを見てるならまだ生きてるよね。電話して。」と言うメッセージと、バイオレットに向けた自作曲をInstagramにアップ。パーティーの帰り道、それ気付いたバイオレットは「すぐに消して!」とフィンチに電話をします。

フィンチはすぐに動画を削除しますが、電話口でバイオレットは「どう言うつもり?」と困惑。するとフィンチは、イギリス人作家のヴァージニア・ウルフの遺書の一文を引用して答えます。

I feel we can’t go through another of those terrible times
私達はもう2度と、あのひどい時を乗り越えられないと思う

ヴァージニア・ウルフはフィンチと同じく双極性障害に苦しんでいました。彼女が入水自殺をする前に、愛する夫へ残した遺書は、世界で最も美しい遺書と言われています。

Molly
Molly

過去のトラウマで心に傷を負ったフィンチが、似た境遇のウルフの文に惹かれる。当然な気もします。この時フィンチは、バイオレットが橋で自殺を考えていた時の事を、ウルフの文の「あのひどい時」を引用して言い表しました。彼は死に向ったウルフの言葉を、彼女を世界につなぎとめる言葉として、正反対に使ったのです。

そしてフィンチは今から会おう、とバイオレットに持ちかけ2人は夜道を歩きます。そして「君は外に出た方が良い」と、課題のパートナーになる事を提案。しかし彼女は断ります。するとフィンチはまた1つ、彼女へ言葉を送りました。

I feel a thousand capacities spring up in me
無限の可能性が湧き上がるのを感じる

この文は「The Wave(波)」からの引用で、作者はまたもウルフ。君にも可能性がある、とフィンチはこの言葉を書いた付箋をバイオレットに渡しました。それを受け取った彼女は「みんなあなたを変人って呼んでる」と言いますが、嫌味ではなくフィンチの意外なキャラクターに拍子抜けした様子。するとフィンチは「時々、よく考えずにものを言うんだ。みんなそれを嫌う。レッテルを貼って、型にはめようとする。自分の理想を押し付ける。」と言いました。するとバイオレットは「みんな面倒を嫌う」と呟き、フィンチは「それか、違っていることを」と続けました。

Molly
Molly

友人にも家族にも、壁を作っているバイオレットは、自身の事も面倒な存在だと思っているのかもしれません。心に問題を抱え始めた自分に対する、周りの微妙な反応を彼女は感じているのでしょう。壁を作りがちな2人の共通点が垣間見えました。

バイオレットは、課題は免除してもらう、と改めて断ります。そして別れ際「おやすみ、セオドア・フィンチ」と言いました。「変人」のレッテルでフィンチを見ていた彼女が、フィンチをフィンチとして認識した様に思えるシーンです。しかし翌日、彼女が学校で課題の免除をお願いするも先生は却下。仕方無く彼女は、車移動をしないならパートナーになる、とフィンチに伝えます。

この時フィンチの車で流れているのは「Waking Up-Mr Little Jeans」

Molly
Molly

「I ain’t waking up (私は目覚めていない)」と言う歌詞が、フィンチの心を暗示している様です。そしてこれから始まるバイオレットとの時間で、彼が変わるかもしれないと言う期待と、2人がどこへでも行ける関係になる様な予感を抱かせる演出に思えました。

癒しの旅

そして2人は、自転車でインディアナ州の名所に向かうことに。道中フィンチはバイオレットに「どこへでも行けるならどこへ行く?」と聞くとバイオレットは、以前暮らしていたカリフォルニアだと答えました。一方フィンチは「誰も行ったことの無い場所に行きたい。」と言います。現実的なバイオレットと、夢見がちなフィンチのコントラストを感じさせるシーンです。

©︎2020 IMDb

まず2人はフーザー・ヒルと言う、インディアナ州で最も標高の高い地点を訪れます。平らな地形のインディアナで、海抜1,257ft(383m)のフーザー・ヒルはとんでもなく低い位置なのです。

バイオレットはしょぼい観光地に笑いながら「課題のためじゃなかったらキレてる」と言いました。「こんなしょぼい景色見たことがない」とフィンチも笑います。

©︎2020 IMDb

するとフィンチは「大丈夫。笑ったからって地獄に落ちない」と、事故で1人だけ生き残り、罪悪感で感情を抑えるバイオレットに言いました。するとバイオレットは橋に立っていたあの日は、姉の誕生日だったと言いました。「あなたは?」と橋にいた理由を聞かれたフィンチは詳しく話そうとせず、バイオレットの視線から目を逸らします。

Molly
Molly

心を開けない彼は、自分を見失う感覚を紛らわす為に走っていた、なんて真実を話すことができないのです。

そして2人はその場に、来た証としてフィンチの持ってきたサイコロを埋めます。すると急にフィンチがバイオレットを見つめて睨み合いっこを始めました。そして少し呆れながらも応戦するバイオレット。穏やかな景色の中で、2人の心の距離は少しずつ縮まっていきます。

いきなり睨み合い対決を持ちかけられて呆れるバイオレット

帰宅したバイオレットは、姉の部屋の扉を開けてみます。しかし、悲しみに染まった思い出が詰まるその場所に苦しくなり、思わず扉を閉めてしまいました。一方フィンチは、バイオレットにメールで再びウルフの引用を送ります。「I feel we can’t go through another of those terrible times.」

するとバイオレットもウルフの引用で返信し、引用合戦開始。

Violet
Violet

Why are women so much interesting to men than men to women
何故女性は男性をこんなにも魅了するのか、男性が女性にする以上に

Finch
Finch

My own brain is to me the most unaccountable of machinery- always buzzing, humming, soaring roaring diving, and then buried in mud. And why? What’s this passion for?
自分の脳こそ1番信用できない器官だ。いつも興奮したり、活気に満ちたり、舞い上がったり、騒いだり、落ち込んだり、最後は土に埋まるのに。何故だ?この情熱は何のためにあるのだろう?

Violet
Violet

If you do not tell the truth about yourself, you cannot tell about other people
自分の真実を語れないのなら、他人の真実も語れない

フィンチは本心を語れない自分を表した様な引用に、思わず複雑な笑みを浮かべました。そして夜にも関わらずバイオレットの家を訪ね「Before I die…」と書かれた壁へ彼女を連れて行きます。

このBefore I die…と書かれた壁は「Before I Die」と言うアートプロジェクトによる作品。様々な団体がこのアートを設置することができるので、色々な場所に存在し、人々はこのアートに触れることができます。フィンチはこの壁に「STAY AWAKE(目覚めていること)」と書き、バイオレットは「Be Brave!(勇敢であること)」と書きました。

Molly
Molly

なんだか今のバイオレットからは「勇敢であること」と言う言葉は、想像できない様に私にはに思えました。同時に、今は塞ぎ込んでいる彼女ですが、本来は明るく豊かな人格を持っているのだとも、この言葉から感じられました。

そしてフィンチがバイオレットに、姉エレノアの事を尋ねると、彼女は読書嫌いのエレノアが、イタリアの詩人チェーザレ・パヴェーゼを気に入っていたと話しました。

We do not remember days, we remember moments. 
思い出すのは日々ではなく、その瞬間。

エレノアの気に入っていた、パヴェーゼの詩をバイオレットは呟きます。彼女が落ち込むといつも、エレノアがこの言葉で慰めてくれたのです。彼女にとってエレノアは、姉であり親友でした。「エレノア・マーキー 姉であり親友、良い墓標だ」とフィンチは言います。そして、自分はどんな墓標が良い?とフィンチがバイオレットに聞くと「バイオレット・マーキー 私はここにいた(I was here)」と彼女は言いました。

Molly
Molly

「I was here」シンプルでありながら力強く、彼女の詩的な感性を窺い知る事ができる素敵な言葉ですね。

恋に落ちた2人

それからバイオレットは目にみえて回復していきました。しかし学校でアマンダから、フィンチが暴れて、ローマーに椅子を投げた事を聞いてしまい、彼女は消えていた警戒心を再び抱き始めます。そしてロッカーを開けると、フィンチからのメッセージが書かれた石が入っていました。

するとフィンチが来て「遅かれ早かれ、君は自力で世界へ戻る。今は喜んで俺が後押しするけど」と言いました。しかしバイオレットは余所余所しい態度。そこへローマーが来て、彼女に関わるなとフィンチに口を出し「俺はお前が本当に変人だって知ってる」と辛辣な言葉を吐きました。

Molly
Molly

他人にレッテルを貼り、型にはめる。まさにフィンチが夜道でバイオレットに話した「みんな」を代表する様な物言いですね。

フィンチはローマーを軽くあしらってその場を去りますが、カウンセリングの時に「変人と呼ばれるのが時々無性に腹が立つ」と本音をこぼします。話を続ける様にエンブリは促しますが、いつもの戯けたフィンチに戻ってしまいました。そこでエンブリはサポートの会を彼に紹介します。

Molly
Molly

この時もらった付箋を触って「これ安物?ノーブランドだな」とフィンチが言うのですが、いつも付箋を愛用し、謂わば付箋のプロであるフィンチならではのジョークでしょうか…それとも形が似ている好物のチーズに例えたジョーク…?いずれにせよ、フィンチのこう言う一面が可愛くて印象に残っています。

そしてその晩、フィンチはランニングをしていました。今日の一件とは裏腹に、彼の表情は爽やかで、バイオレットがどれほど彼にとって大きな存在になっているのかを感じさせます。この時フィンチが聴いている曲はPumpin Blood-NONONOです。

Hey heart on the road again moving on forward, Sticks and stones won’t break our bones, We’re in a car on the highway, It’s a magical feeling that no one’s got a hold, You’re a catalyst to your happiness you know

ねぇ もう1度前へ進もう 棒や石なんかに邪魔されない 私達は車に乗ってハイウェイにいるんだから 誰にも邪魔されない素敵な気分 あなたがその原因だよ わかるでしょ

Molly
Molly

この幸せな気分の原因はあなた、そしてあなたと再び進む。歌詞がフィンチのバイオレットに対する気持ちを暗示しています。フィンチはバイオレットの後押しをし、彼女と共に進む様な希望を抱いていたのかもしれませんね。

そしてフィンチはバイオレットの庭で野宿。

家から出て来たバイオレットと彼女の両親にフィンチは、彼女を連れて行きたい場所があると言います。バイオレットは嫌がりますが、両親は外に出る良い機会だと好意的。しかしフィンチの行こうとしている場所は街から、260km離れているので車に乗らなくてはなりません。そこでフィンチは必ず安全運転をする、とバイオレットを説得。そして両親の後押しもあり、バイオレットは渋々行くことに。

事故以来車に乗ることを拒んできたバイオレットは、かなり不安な様子。気を紛らわそうとカーステレオのスイッチを押すと「Nothing’s Gonna Stop Us Now -Starship」が流れ出し、フィンチは慌てて止めますが、80年代のポップソングにバイオレットは思わず吹き出します。

Molly
Molly

「And we can build this dream together(この夢を一緒に創ろう)」と言うフレーズが流れてフィンチは恥ずかしそうですが、バイオレットの心は少し解れました。ロマンチストなフィンチが聴いてそうな爽やかな曲ですね!

車が進むに連れて、バイオレットは事故の記憶をフィンチに話し始めました。彼女が覚えていたのは、エレノアと一緒に乗っていた車がスリップし、聞こえたエレノアの悲鳴と、窓ガラスに頭をぶつけた事だけ。目覚めると病院で、エレノアが亡くなったと聞かされたと言います。フィンチは黙って彼女の手を握りました。

止まっていたバイオレットの世界は、記憶と内に秘めた感情をフィンチに共有することで再び前進し始めます。車が進み、流れていく景色が、進み始めた彼女を表しているかの様です。やがて2人が辿り着いたのは、インディアナ州ブルースヴィルにある手作りコースターのある家。

©︎2020 Filming Locations

こちらは、John Iversさんと言うコースター好きの一般男性が自宅に手作りした「ブルー・フラッシュ」と言うコースターです。日本でもテレビで取り上げられる程有名なので、ご存知の方も多いかもしれませんね。バイオレットはそのコースターに乗って思わず笑みをこぼします。

Molly
Molly

車に乗ることも拒んでいたバイオレットですが、フィンチとコースターを満喫できました。ものすごい前進ですね!

そして帰り道、フィンチは上機嫌にカーステレオから流れる「Too Young To Burn-Sonny and the Sunsets」を歌い出しました。

When I was just a kid they said, Kid don’t you cry, I am older now I say, It’s alright Every tear rollin down Is a lesson learned
僕が子供の頃、みんなは泣くなと言ったけど 大人になった僕は 泣いても良いんだと言うよ 全てのこぼれ落ちる涙は 学ぶべき教訓なんだ

Molly
Molly

バイオレットが涙を流し、前へと進み始めたシーンを表している様な歌詞。フィンチらしい励まし方にキュンとしました…。

バイオレットはすっかりフィンチに心を許していました。するとフィンチはダッシュボードにプレゼントがあると言い、そこには訪ねた場所を記録するノートと、いつかフィンチがバイオレットを連れて行こうと思っている場所をマークした地図がありました。

フィンチは、バイオレットが辞めた執筆活動を再開するきっかけをくれたのです。そしてフィンチは「君の好きな所がどこか分かる?全ての色が1つに混ざって、すごく輝いてる。」言います。

Molly
Molly

この時フィンチはバイオレットを「Ultraviolet」と呼んでいました。フィンチのつけた愛称です。可愛いですね!

そしてフィンチは車を止めてバイオレットにキスをし、彼女もそれを受け入れるのです。

©︎2020 IMDb

2人の輝く場所

それから2人は様々な場所を巡り、愛を深めていきます。中でも印象的なのは、この「shoe tree(靴の木)」です。この木はインディアナのミルタウンにあります。(-Distractifyより) やがてフィンチとバイオレットは、互いにとっての輝く場所となりました。草原で踊り、観光地を訪ね、バイオレットは感情を解き放った様に彼との時間を楽しみます。

©︎2020 IMDb

そんなある日、フィンチは姿を消して音信不通に。フィンチの友人はいつものことだと言いますが、メールすら返信しないフィンチにバイオレットは腹を立てます。翌朝バイオレットが目を覚ますと、フィンチが彼女の家のリビングに来ていました。いなくなった事を謝るフィンチにバイオレットはご立腹ですが、フィンチが持って来た花を見て、思わず笑みを溢しました。

それから2人は、フィンチが見つけた湖へ。作中でフィンチは、この湖は底無しで、水遊びをしていた若者達が全員行方不明になり、遺体も見つからなかったと言います。そしてその湖としてロケで使われたのは、インディアナのプレイリートンにある「ブルーホールレイク(Blue Hole lake)」と言う湖。地元でも美しいスポットとして有名で、インディアナを訪れた際には是非行きたい場所ですね。(-Odysseyより)

更にフィンチは、この湖は別世界へ通じていると言う伝説があり、消えた若者達はそこへ行ったのかもしれないと言います。彼は面白がり、泳ごうと提案しますが、バイオレットは拒否。すると彼は、そんなバイオレットに「じゃあ、1番怖いものは何?」と尋ねました。彼女は「平凡であること」と答えます。「じゃあ、なるな」とフィンチは服を脱ぎ、考え直したバイオレットも彼に続きました。この時バイオレットは、フィンチの脇腹に大きな傷があるのを見つけます。

©︎2020 VANITY FAIR
Molly
Molly

湖で泳いだ後、フィンチが「マルコ!」と叫び、バイオレットが「ポーロ!」と答えるシーンがあります。これはアメリカで定番のプール鬼「マルコポーロ」なのです。鬼が目を瞑り10秒数えて「マルコ!」と言うと、他の人は「ポーロ!」と答えて逃げ、鬼は目を瞑ったまま音を頼りにみんなを探すと言う面白そうなゲーム。この時フィンチは追う側、バイオレットは追われる側の掛け声を叫びます。まるで傷を負ったバイオレットを見つけ出したフィンチと、フィンチに見つけ出されたバイオレットの、今の関係性を暗示している様な演出ですね。

そして今度はバイオレットがフィンチに「1番怖いものは?」と尋ねました。するとフィンチは姉を失う事だと答えます。寂しい家庭環境でフィンチが頼れるのは姉だけ。だからこそ彼は、姉を亡くしたバイオレットに親身に寄り添ったのかもしれませんね。それからバイオレットはフィンチの脇腹の傷について尋ねます。すると彼は答えずに、再び湖へ泳ぎに行ってしまいました。黙って見送るバイオレットでしたが、暫くしても彼が水面に上がってこないので慌て始めます。

©︎2020 IMDb

やっと浮かんできたフィンチに心配したバイオレットは怒り「消える時いつもどこにいるの?本当のことを教えて。」と言いました。すると彼は「時々自分自身を取り戻しに、どこかへ行かなくちゃならない。自分をコントロールできている証拠が必要なんだ」と答え、父親がよく豹変して暴力を振るった事、傷も幼い頃に父親から受けたものだと言う事を明かしました。「みんな面倒を嫌うだろ?」と寂しげに呟く彼に、バイオレットは優しくキスをします。

Molly
Molly

みんな面倒を嫌うこれは、初めて2人が夜道を歩いた時にバイオレットが行った言葉ですね。フィンチは1人で解決しようともがいているのです。フィンチが自分の心と過去をバイオレットに共有している時、いつもの彼の仮面の様な笑顔は崩れ去っていました。塞ぎ込んだ彼女に手を差し伸べていたフィンチですが、彼も仮面を崩して真実を聞いてくれる誰かが必要だったのかもしれません。

自分を失う感覚

それからフィンチは、バイオレットを自分の秘密基地へ連れていきました。楽しく過ごし、お互いに夢中になった2人はそのまま一晩を明かしてしまいます。

翌朝帰宅すると、バイオレットの両親は無断で外泊した2人に怒り、言い訳も聞かずに彼らを引き離しました。フィンチは心が不安定になり、また自分を見失いかけます。書きためた付箋を剥がしたり、壁を青く塗ったり、走ったりしますが効果は無く途方に暮れます。

この時フィンチが聴いている曲は「November-Babeheaven」

I am wondering, How far we go, How far we go, I can’t get away, I can’t get away, I feel so much for them, Try and force this, Hold it, But I can’t much longer
考えていた、私達はどこまで行くのか 逃げることはできない それをすごく感じる 無理矢理試してみる 落ち着いて でも長くは続けられない

Molly
Molly

フィンチの自分を見失う恐ろしい感覚から逃げ出す事ができず、もがいている状況が反映された選曲ですね。歌詞が霧の中にいる様な彼の心情を表している様に思えます。

翌朝学校で、フィンチと付き合うバイオレットに、やめておけと口出しをするローマー。気にせずフィンチはバイオレットを連れ出そうとしますが、ローマーの言った「変人」と言う言葉に我を失い、彼を殴ってしまいます。バイオレットの必死の制止で我に帰りますが、止めに入った友人まで殴る始末。フィンチは学校から飛び出し、再び音信不通に。心配したバイオレットはフィンチの家に行き、ケイトに事情を話してフィンチの帰りを彼の家で待てせてもらうことにしました。

一方フィンチは藁をもすがる思いで、サポートの会へ。そこで、学校で喧嘩騒動を起こしてしまったこと、時々自分を見失うことなどを話しました。するとそこへ、バイオレットの友人アマンダもやって来ます。摂食障害と自殺願望を抱えていると言う彼女にフィンチは驚きました。

アマンダはフィンチに、噂を嫌うなら騒動を起こさない方が良いと忠告しますが、フィンチは「みんないつでも噂してる。それが彼らの特徴だ」と諦めた様に呟きました。それからフィンチはケイトの働く店に行き、父が豹変したのには、原因があるのではないかと話します。しかしケイトは父が最低な人間だったからだと言いました。何故そんな事を今更気にするのかと不思議がるケイトに、フィンチは「大丈夫だよ」といつもの笑顔を貼り付けて店を後にします。

Molly
Molly

フィンチはいつもこの笑顔で他人と壁を作ります。ケイトが父親の双極性障害を知っていれば、同じ症状に悩む彼は救われたかもしれません…。

フィンチが帰宅すると、部屋でバイオレットが彼を待っていました。そこでフィンチは彼女に「集中しているんだ、目覚めていることに」と言い、時々全ての意識が消えること、そして今回は酷い状況で回復には時間が必要だと言うことを説明します。

手助けをしたいと言うバイオレットにフィンチは「君には関係のないことだ!」と叫びました。そして「君に言っても分かるはずがない」と、涙するバイオレットに部屋から追い出してしまいます。その時彼女は、以前にフィンチからもらった「Your turn」と書かれた石を置いていき、フィンチはそれを手に取って立ち尽くしました。

フィンチの決断

翌日からフィンチは再び音信不通。バイオレットは涙ながらに帰って来てほしい、と彼の留守電に残しますが応答は無し。そんな時バイオレットは父親に、エレノアの誕生日の朝に事故現場の橋に立っていたのを、フィンチが見つけてくれたことを話しました。それを聞いた父親は青ざめ、フィンチに感謝をします。そして父親は彼の居場所を考えるバイオレットに、2人で行った場所にどこか心当たりは無いかと尋ねました。そしてバイオレットは以前フィンチと行った湖を思い出し、車で向かうことに。

Molly
Molly

助手席に乗る事すら怖がっていたバイオレットが車を運転できる程、彼女はフィンチを思っているのです。彼女のフィンチを救いたい、と言う強い気持ちが感じられるシーンですね。

湖に着くとフィンチの車があり、彼の決断を察したバイオレットは取り乱して水辺へと向かいます。するとそこには脱ぎ捨てられたフィンチの服と、「Your turn」と書かれた石がありました。

バイオレットは泣きながら湖に向かって「マルコ!」と叫びますが、応答はありません。

Molly
Molly

以前はフィンチでしたが、今回はバイオレットが見つけ出す側の「マルコ」を叫んでいます。フィンチが心の喪失から彼女をを見つけ出し、救ってくれた様に、彼女もフィンチを見つけ出したかったのです。彼女の抱く、今度は自分がフィンチを救う、と言う気持ちが表現された切ない演出ですね…。

エレノアの死を乗り越えたバイオレットに待ち受けていたのは、愛するフィンチの死でした。バイオレットは再び愛する者の喪失と向き合うことになったのです。彼女は「私がそこにいれば…」と後悔し、フィンチをひどく恋しがります。そんな時友人のアマンダは、抱えている心の病をバイオレットに告白。彼女の自殺願望を知ったバイオレットは「いなくならないで」と言い、アマンダは「わかってる」と微笑みました。

Molly
Molly

心に病を抱える事は、珍しい事ではありません。身近な人、あるいは自分。心が不安定になるきっかけは日常に溢れているのです。

喪失に寄り添うバイオレット

バイオレットはフィンチとの出会いで変わりました。フィンチの死に、塞ぎ込むことなく向き合おうとし始めたのです。そして彼女の可能性を見つけ出したのは、他でもないフィンチでした。

また、フィンチがくれたきっかけで再開した執筆活動は、喪失感に飲み込まれて自分を失っていたバイオレットに、バイオレットらしさを取り戻しました。そして彼女はフィンチの地図を見返し、印の付いた場所を訪ねてみることに。その場所へ行くと、そこには美しい教会が建っていました。

この教会はヘイル・ファーム & ビレッジ(Hale Farm & Village)」と言うオハイオにある歴史的教会です。そこには歴史的建造物と博物館があります。作中では、疲れた旅人の憩いの場所、そして車の事故により若くして落命した人々を忍んで建てられた教会とされていました。そしてバイオレットは、教会を訪れた観光客名簿の中にフィンチの言葉を見つけます。

「I was here」は以前にバイオレットが、自分の墓標にしたいと言った言葉で、フィンチも気に入っていました。「私はここにいた」そのシンプルで力強い言葉が、フィンチらしい筆跡で残されていたのです。バイオレットは思わず微笑み、涙しました。

バイオレットが見つけた生きることの可能性

そして学校の課題発表で、バイオレットはフィンチと共に訪れた輝く場所の事、フィンチが教えてくれた自分達の可能性ついて話しました。

意味のある事も無意味に思えて、生きる事を恐れていた。感情を取り戻すこと、自分はそれに値しないと恐れていた。でも、気付かないうちに変わった。生きる事を恐れるよりも、死を恐れる様になった。失う物、忘れ去る事、全ての瞬間を忘れる事を…。フィンチがいたから、回り道を教えてくれたから。迷っても平気、帰り道を見つければ。でもそれを理解すると、大切な物を見過ごしていたと気付く。フィンチの事、彼の抱えていた痛み、彼が私に教えようとした全て、乗り越える事。フィンチは夢を見てた、目覚めたままで。世界の美しさを夢見て、私の人生に運んでくれた。フィンチは意外な場所に美しさがあると教えてくれた。それは光り輝く場所。例え辛い時に輝く場所が無くても、あなたが輝く場所になれば良い。無限の可能性を持って。

バイオレットはフィンチの友人と遊んだり、ケイトに会いに行ったり、塞ぎ込むことはしませんでした。彼女はフィンチによって喪失に飲み込まれず、寄り添うことを学んだのです。

Molly<br>
Molly

ラストシーンは、フィンチの思い出が詰まった湖の光り輝く水面に、心地良く浮かぶバイオレットが映り、映画は希望の雰囲気に包まれて幕を閉じます。

おわりに

爽やかな青春につきまとう心の病。誰でも簡単に患うこの病は、目に見えずとても厄介ですね。世界中にフィンチの様な病を抱えている人がいて、そんな人々に向けた暖かいメッセージが込められた映画だと私は感じました。作中でフィンチは、心を開く事ができずに病を悪化させてしまいますが、この作品を見て私達は、他人に頼ることで変われる、その大切さをを学べます。そして喪失感に寄り添い、生きる自分の可能性を見失わないこと。心の喪失感と寄り添い、自分を見失わない力を手に入れたバイオレットから学ぶことも多くあります。これは苦しみを抱え、1人で戦おうとする誰かに送りたい、処方箋の様な映画なのです。

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